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えん下食シェフ

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NHKの番組で、山形県鶴岡市のえん下食シェフ、延味克士(えんみ・かつし)さんが紹介されました。

えん下食シェフとは、物を呑み込むことができない、嚥下障害のある人でも食べられる、食事を作るシェフです。

現在、旅館「うしお荘」の支配人を務める延味さんは、洋食と和食に精通した料理人です。

延味さんは、お父さんを食道癌で亡くされました。

そのお父さんが亡くなる前に嚥下障害になり、料理人である延味さんが、作った料理を食べられなくなったそうです。

それは、延味さんにとって、無力を感じさせられる悲しいことでした。

その延味さんに、ある時、地元の医療関係者から嚥下障害のある人の、食事について相談を持ちかけられました。

それで、その人たちと一緒に、えん下食を作ることになったのですが、それには亡くなったお父さんのことが、あったと言います。

お父さんと同じように、嚥下障害に苦しむ人たちに、食の楽しさを取り戻してもらいたい。

その一心で、様々な努力や工夫を、延味さんは繰り返します。

その人が食べたい物を作るため、料理は一回一回が真剣勝負です。

見た目も美しく、味も食感も本物、しかし、口の中ではすぐに崩れて食べやすい、そんな料理を延味さんは作りますが、その工夫は食材によって違います。

通常は嚥下障害の人たちが食べる物は、ミキサーにかけて、どろどろにしたようなものばかりなので、見た目の楽しさや、舌触りなどの味わいはありません。

患者さんは何を食べているのか、わからないと言いますし、美味しいとも思いません。

ただ、生きるために必要な栄養分を、体に取り込んでいるだけで、食事というものではないのです。

介護の現場にいる人たちから湧き出た、これを何とかしたいという熱い思いが、延味さんの心を動かし、えん下食シェフの道を、延味さんは進むことになりました。

料理を作るのは延味さんですが、その後ろには介護現場にいる人たちの、思いがあるのです。

それまで楽しい食事を、あきらめていた方たちが、延味さんの料理によって、食の楽しさを思い出し、味わい、感激する姿は、見ている者の心を打ちます。

その姿を見た、介護施設の調理をする人たちも、感激して、延味さんのような食事を提供するようになりました。

患者さんたちも、その食事に喜んでいました。

ただ、料理が上手というだけでは、決して作ることのできない、えん下食料理です。

嚥下障害に苦しむ人や、その家族の気持ちを知り、何とか力になってあげたいという思いがなければ、絶対に作ることはできません。

その気持ちが、シェフを通して他の人々に、広がって行く様子も、また感動させられました。

人の苦しみは、嚥下障害以外にも、たくさんあります。

しかし、その苦しみを何とかしたいと思い、懸命に取り組む人も、たくさんいらっしゃいます。

お金儲けや名声のためではなく、本当に誰かを思って行うことは、とても尊いことです。

そして、それこそが人間の本来の姿ではないかと思います。

誰もがえん下食を、作れるわけではありませんが、自分にできることで、誰かの力になることは可能でしょう。

それがどんなことであれ、一人一人がそのような気持ちを持ったなら、こんなに素敵で素晴らしいことはありません。