蝶々の話
松山市から山を越えて、今治市に入った所に、玉川ダムの湖があります。
そのダム湖の脇に、地元の農産物の直売所があるのですが、そこで一匹の蝶々を見つけました。
飛んでいる様子を見ると、羽の背中側は黒っぽいのですが、お腹側は白いんです。
どこかに留まる時は、羽を閉じるので、見えるのはお腹側の白い面だけです。
一見、モンシロチョウのように見えますが、モンシロチョウのような、黒い紋は付いていないし、羽の形や表面の感じが、モンシロチョウとは違います。
何という蝶々なのか、名前はわかりませんが、その蝶々がひらひら飛んで、キクラゲを入れている、黒いプラスチックのケースに留まったんです。
何が気に入ったのかわかりませんが、近づいても逃げませんし、よく見ると、触角や伸ばした口で、ケースを触れながら歩いています。
何かケースについた、甘い香りに誘われているのだろうかと思いながら、しばらく観察していたのですが、他の人が来ると、驚いたように逃げるんですね。
でも、しばらくすると、また戻って来て、元のケースの上に留まります。
そんなことを何度か繰り返したのち、また人に驚いた蝶々は、ひらひら飛んで行ったんです。
その間、私は蝶々に向かって、こっちへおいでと念じていました。
すると、向こうの方へ行ったと思った蝶々が、また戻って来て、私の手に留まったんです。
これには驚きましたし、何だか嬉しかったですね。
しばらく眺めたあと、他の所へ逃がしてやろうと思い、その場から離れて歩いたのですが、その間も、蝶々は手に留まったまま、じっとしていました。
歩いて行った方に、クモの巣があると家内が言うので、元の所に戻って来たのですが、それでも蝶々は動きません。
もう行かなければいけないので、困ったなと思いながら、少し手を動かすと、ようやく蝶々は手から離れました。
でも、辺りをひらひら舞ったあと、また戻って来て、今度は私の肩に留まったんです。
嬉しいけど、困ったなと思っていると、蝶々は自分から離れて、飛んで行きました。
何だか挨拶をされたような気分です。
ただの偶然だと思われるかもしれませんが、私は蝶々と気持ちが、通じたのではないかと思いました。
些細な出来事ですが、幸せな一時でした。