自律性と統一性 その1
心臓は全身に血液を送り出すポンプとして、リズミカルに縮んだり緩んだりしています。
眠っていようが、起きていようが関係なく、心臓は一生の間、ずっと動き続けます。
どうしてそんな事ができるのかと言うと、心臓の筋肉を作っている心筋細胞が、リズミカルに縮んだり緩んだりする性質があるからです。
そうすることが心筋細胞の務めであり、心筋細胞としての自己表現なのですね。
心筋細胞一つ一つが、そのような性質を持っているので、細胞がばらばらの状態にされても、それぞれの細胞が律動的に、収縮と弛緩を繰り返します。
そんな心筋細胞の集まりだから、心臓はポンプとして動くことができるのです。
しかし、いかに心筋細胞に律動性があると言っても、それぞれが勝手なリズムで動いてしまうと、全体的にはポンプとして機能ができません。
病気で言えば、心房細動や心室細動と呼ばれる不整脈の時が、それぞれの心筋細胞がばらばらに動いている状態です。
この時の心臓を見ると、細かく震えた痙攣状態になっていて、止まっているのと同じ状況になっています。
心臓には心房と呼ばれる、血液を圧縮するための上の部屋と、心室と呼ばれる、全身に血液を送り出す下の部屋があります。
心房細動の場合、心房部分は痙攣状態にあって、機能はしていません。
しかし、心室部分は律動的な収縮を行いますので、圧縮はうまくできませんが、取り敢えず全身に血液を送り出すことはできます。
これに対して、心室細動は心室部分が痙攣状態になりますから、心停止と同じ状況になり、すぐに処置をしなければ、この方は亡くなってしまいます。
心筋細胞に自律性があっても、それを統率できなければ、全体としての機能は果たせなくなるのですね。
通常の心臓は、まず心房が収縮して心室に血液を充満させ、続いて心室が収縮して、血液が全身に送られます。
つまり、心房から心室へ順番に、各部位の心筋細胞が収縮しているわけです。
心房のある部分の細胞は、他の心筋細胞よりも、速い律動性を持っています。
それぞれの心筋細胞が、独自の律動性で動く前に、この速い律動性の刺激が伝わると、各心筋細胞は、その刺激で収縮します。
こうして心臓全体が、統率された律動性で、動くようになるのです。
のんびり気ままに動く人たちに、号令をかけて、一斉にてきぱきと、動かすようなものですね。
このように、心臓がポンプとして機能するためには、各心筋細胞の自律性と、それを一つにまとめる統一性が必要なのです。
そもそも心筋細胞に自律性がなければ、心臓は止まったまま動くことはありません。
しかし、せっかくの自律性も、統一性が加わらなければ、心臓はやはり止まっているのと、同じ状態になります。
これは、私たちの社会についても、同じことが言えるでしょう。
一人一人の自律的な動きがなければ、何も始まることはありません。
まずは、各自の動きが必要です。
では、人間の自律性とは、どのようなものなのでしょうか。