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手ぶくろを買いに

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前回、新美南吉「ごんぎつね」を紹介しましたが、もう一冊お勧めがあります。

それは、同じく新美南吉が書いた「手ぶくろを買いに」です。

やはり、主人公は狐ですが、読み終えたあとに、心が温まるお話です。

これも、多くの絵本が出ていますが、私が好きなのは、黒井健さんの絵の「手ぶくろを買いに」です。

※ ※ 偕成社「手ぶくろを買いに」新美南吉 作 黒井健 絵

そのお話は、次のようなものです。


ある雪の日、子狐は初めて見る雪に驚き、雪に触れた手が冷たいと、母狐に訴えました。

子供が霜焼けにならないかと、心配した母狐は子狐を連れて、人間の町へ手袋を買いに行きます。

しかし、店の近くまで来て、人間が怖くなった母狐は、子狐だけを行かせることにしました。

母狐は子狐の片方の手を、人間の子供の手に変え、この手だけを見せて、手袋を買うようにと言いました。

理由をたずねる子狐に、人間は狐には手袋を売らないし、狐を捕まえてしまう怖い生き物だからだと説明しました。

母狐からお金を持たされた子狐は、一人で手袋を売る店へ向かいます。

ところが、開けられた扉の隙間から、漏れ出た明かりが眩しくて、子狐は人間に見せてはいけない方の、狐のままの手を、扉の隙間に差し出しました。

「このお手々にちょうどいい手袋下さい」

子狐の手を見た店の主は、相手が狐なのがわかった上で、先にお金を求めます。

渡されたお金が本物であるとわかると、店の主は子供用の毛糸の手袋を、子狐に持たせてやりました。

心配する母狐の元に戻った子狐は、差し出す手を間違えたのに、人間が手袋を売ってくれたと説明しました。

母狐はあきれながら、「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」とつぶやきました。


こんなお話ですが、これは自分たちとは容姿が違う、相手に対する恐れや不安を表しています。

母狐が人間を恐れるのは、実際に人間が狐を捕まえて、殺したりする事実があるからです。

それでも手袋を買い求めようとするのは、人間の優れた所を認めているのでしょう。

一方、子狐は人間の恐ろしさを知りませんから、素直な気持ちで人間を眺めています。

もし、怖い想いをしたならば、母狐と同じ想いを抱くようになるでしょう。

しかし、子狐に応対したのは、相手が人間であれ狐であれ、商売の相手を差別しない人物でした。

偽のお金で品物を手に入れようとしたならば、この人物は怒ったでしょう。

でも、正当な方法で手に入れようとする相手であれば、それが誰であれ、同じように応対します。

実際には、相手が狐だとわかったら、お金は奪い取った上に、捕まえて殺してしまうような、ひどい人間もいるでしょう。

この子狐は運がよかったのか、子狐の純真さが、いい人物との出会いを引き当てたのか、それはわかりません。

いずれにしても、世の中にはいろんな人がいるわけで、どこの国の者だとか、どんな民族なのかとか、一括りで判断できないのは、周知の事実でしょう。

「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」という、母狐の言葉は、まさに私たち自身が、自らに問いかけている言葉なのだと思います。

でも、この本を読まれた方は、自分だったら、子狐に対してどのような対応をするだろうかと、考えるのではないでしょうか。

また、人間を恐れないこの子狐が、これからも無事に真っ直ぐ育って行くことを、願うのではないでしょうか。

そのことが、読んだ人の心を、ほっこりさせるのだと思います。

とてもいい本ですから、ぜひ読んで見て下さい。