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壊れた腕時計

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 ※daledbetさんによるPixabayからの画像です。

先日の父の日に、家内と子供たちから、懐中時計をプレゼントされました。

父の日だったことすら、頭になかった私は、思いがけない贈り物に、胸が一杯になりました。

私は昔買った安い腕時計を、何年も使っていました。

でも、その時計が壊れてからは、時計を持ちませんでした。

別になくても、それほど困らないと、思っていたからです。

それでも、立派な懐中時計には、胸が弾みました。

何より、時計に込められた、家族の気持ちが嬉しかったのです。

その懐中時計を喜んでいると、家内が思い出したように、別の時計の話をしました。

同じ市内に暮らす、家内の義父の腕時計の話です。

 ※Bruno /GermanyさんによるPixabayからの画像です。

義父は腕時計を、二つ持っていました。

その二つとも、壊れて動かなくなったので、修理に出して欲しいと、家内は頼まれました。
もう1年ほど前の話です。

昔と違って、最近は時計屋を、見かけなくなりました。

家内は苦労して、古くて小さな時計屋を見つけると、そこへ二つの腕時計を、持って行ったのです。

その結果、一つは再び動くようになりました。

でも、もう一つはどうしても動かないので、これはだめだと、時計屋さんに言われました。

家内は直った方の腕時計を、義父に戻しました。

壊れたままの腕時計は、また別の時計屋を探してみようと思い、自宅の机の引き出しに、仕舞っておきました。

とりあえず一つは直ったので、義父はそれで、満足してくれたようでした。

しかし先週、その腕時計がちょっとした事情があって、無残に壊れてしまったのです。

せっかく修理に出して、直ったはずの腕時計が、どのように壊れたのかを、家内は私に説明しようとしました。

でも、上手く説明できないので、机の引き出しに仕舞っておいた、壊れたままの腕時計を取り出しました。

それを使って、今度の時計の壊れ具合を、私に説明しようとしたのです。

 ※rakuichi_rakuza_v3さんによる写真ACからの画像です。

ところがです。

家内が手に持った、その壊れていたはずの腕時計の針が、動いていたのです。

しかも現在時刻に、ぴったりと合っていました。

その事を指摘すると、家内も驚きました。

だってその時計は、時計屋がだめたと言った、時計なのです。

壊れたまま机の引き出しの中に、ずっと放っておかれた、時計だったのです。

その時計が動いていて、しかも時刻がぴったり合っているのです。

まるで、今回壊れた時計の代わりに、自分を義父の元に届けなさいとでも、言っているかのようでした。

翌日、家内はそれを、義父に届けに行きました。

腕時計が壊れた義父は、かなり落ち込んだと思います。

でも、勝手に直った腕時計を持って行くと、とても喜んでくれたそうです。

時計屋が直らないと、断言した腕時計ですから、家内は捨てることも考えました。

でも結局、捨てないで取っておいたのです。

もし捨てていたら、今回の話はありませんでした。

また、私への父の日のプレゼントですが、これが懐中時計だったのも、偶然とは思えません。

懐中時計だったから、義父の時計が壊れたという、話題が出たのです。

父の日のプレゼントがなかったり、もらっても懐中時計でなかったなら、今回の話にはつながらなかったかも知れません。

それに家内が、壊れた腕時計の説明をするために、何でわざわざ、引き出しの中の腕時計を、出そうとしたのかも不思議です。

その時計がなければ説明ができない、という事でもなかったのです。

それが説明の途中で、ふと思いついたように、引き出しから、この腕時計を取り出したのです。

家内が引き出しを開けなければ、この時計が動いていても、誰も気がつかなかったでしょう。

私たちは、壊れた時計の代わりに、新しい時計を義父に買ってあげようかと、相談をしていたのです。

でも新しい時計より、使い慣れた時計の方が、いいに決まっています。

実際、義父はとても喜んでくれましたから、本当によかったと家内と喜び合いました。

きっと見えない誰かが、そっと力を貸してくれたに、違いありません。

不思議なこともあるものだと言いながら、目に見えない力を、発揮してくれた何者かに、夫婦二人で深く感謝をしました。

本当に不思議で、感動的な出来事でした。