当たり前のこと

日本に暮らすナイジェリアの男性が、拾った財布を交番に届けて、財布が無事に持ち主に戻ったという話が、ニュースの記事に出ていました。

どうしてそんな事が、ニュースの記事になったのでしょうか。

それは、彼がナイジェリアの人間だからです。

でも、ナイジェリアの人が、財布を拾って届け出たことが、日本で話題になったのではありません。

彼の行いが母国のナイジェリアに伝わり、大統領から感謝の言葉が、彼に贈られる事態になったからです。


このナイジェリアの男性は、イケンナ・ウェケさん(38)です。

イケンナさんが育った家庭はとても貧しく、12才の時に、イケンナさんは父親を失くしたそうです。

亡くなったお父さんは、とても誠実な人柄で、「朝、家を出るときに持っていなかったものは、持ち帰らないこと」と、イケンナさんたち子供に、厳しく教えたそうです。

他人をねたまず、自分の置かれた状況に満足することも、イケンナさんは父から学んだと言います。

イケンナさんは、ゴミ拾いなどをして貯めたお金で、高校に進学したものの、大学のお金までは工面できませんでした。

それでも、教員や地元の新聞社のスタッフとして働きながら、将来は大学の教師になるという夢を、持ち続けていたそうです。

そして2013年。
留学生増加のため、日本の文部科学省が実施した、奨学金に申し込んで合格し、イケンナさんは筑波大学へ入ることができました。

今は博士課程まで進み、母国の北東部で襲撃事件を繰り返す、イスラム過激派ボコ・ハラムを研究しています。
どうすればテロを根絶できるのか、その方策を探っているのです。

そんな中、今年の六月に、バスターミナルの近くで拾ったのが、数枚の一万円札とクレジットカードなどが、入った財布でした。

それを警察に届けると、拾ったお金の一割を、もらう権利があると説明されたそうですが、イケンナさんはそれを断ったと言います。

しばらくしてから警察から、落とし主に財布が戻ったという、連絡が入りました。

落とし主からも電話があり、感謝を告げられたそうです。

この出来事をイケンナさんは、フェイスブックに載せました。

と言うのも、その頃、26人のナイジェリア人が、他国でネット詐欺などの容疑で逮捕され、ナイジェリアのイメージが、とても悪くなっていたからです。

それで、イケンナさんはフェイスブックで、全てのナイジェリア人が、悪い人間なのではないと、訴えたのです。

すると、その話が母国に広がり、ナイジェリア大使館から感謝の書簡が、イケンナさんに届けられました。

さらにナイジェリア大統領が、イケンナさんを誇りに思う声明を、発表したのです。

イケンナさんは栄誉なことと受け止めながらも、困惑しました。

自分は財布を拾っただけで、特別なことはしていないのに、こんなに有名になってしまうのは、おかしいと思ったのです。

そこでイケンナさんは、母国の社会を変えたいと考えました。

イケンナさんは財団を立ち上げ、正直であること、清廉であることを、母国の人たちに教えることに決めたのです。

そういった事が母国でも、当たり前になるようにしたかったのです。

そのために日本が子供たちに教えていることや、自分自身が日本で経験したことを、財団で伝えたいと、イケンナさんは考えました。

その話を聞いた財布の落とし主も、イケンナさんの財団への、協力を申し出てくれたそうです。

私はイケンナさんの望みは、きっと叶うものと思います。

きっとナイジェリアも、今よりずっといい国になるでしょう。

でも一方で、私は日本での当たり前を、改めて考えさせられました。

私たちが当たり前と考えていることは、世界全体から見た場合には、当たり前ではないという事です。

それこそ当たり前の話ですし、そんな事は以前から、何度も言われていました。

それでも大統領が声明を出すのは、余程のことでしょう。

でも、日本でも当たり前のことが、当たり前でなくなりつつあるように、感じることがしばしばあります。

イケンナさんの話は、そういった事を改めて考えさせてくれる、いい機会になりました。

イケンナさんに感謝をしつつ、イケンナさんに恥じないような、日本であり続けて欲しいと思います。