昆虫の変態
昆虫は不思議な生き物です。
多くの昆虫は、その成長過程によって、姿が変わって行きます。
中でも、幼虫からサナギを経て、成虫になるものは、幼虫と成虫とで、全く別の生き物のように、見えてしまいます。
人間や動物は、子供と大人の形態が似ています。
子供は時間をかけて、ゆっくりと大人に姿を変えて行きます。
ですから、そういう形での成長であれば、不思議に思いません。
しかし、幼虫と成虫とで、全く異なる姿をしている昆虫は、不思議以外の何物でもありません。
いったい、どんな風にして、姿を変えるのだろう?
サナギの中は、どうなっているのかしら?
そんな風に考えたことが、あるのではないでしょうか。
実はサナギの中は、初めのうちは、ドロドロに溶けたように、見えるそうです。
その中には、不要になった部分の細胞が、自ら崩壊したものと、新たな形態を作るための細胞が、増殖したものが交じっているのですが、見た目には区別がつきません。
やがて不要な細胞は消滅し、成虫の形が構築され、時期が来ると、サナギの皮を破って、成虫が出て来るのです。
まったく生命の不思議を、感じさせられる昆虫の変態ですが、人間も母親のお腹の中にいる時に、似たような経過を経て、成長しています。
人間の受精卵は成長する過程で、魚のような姿になったり、爬虫類のような姿になったりしながら、最終的に人間の姿になります。
この過程において、鰓のようなものや、しっぽが作られるのですが、それは人間には不要なものですから、やがて退縮して行きます。
ただ、全体がどろどろに溶けて、全部が別のものに、置き換えられるわけではありません。
やはり昆虫の変態は、人間の成長の仕方とは、次元が違うようです。
ところで、今の人間社会を見ていますと、昆虫の変態を彷彿させられます。
これまでは災害にしても、不景気にしても、戦争にしても、部分的な変化はあるものの、地球全体に及ぶような、大きな変化はありませんでした。
どんな状況にあっても、お金を基本とした経済観念は、維持されていました。
資本主義だとか共産主義だとか言っても、お金がなければ、何もできない構造は、共通していました。
しかし、資本主義に行き詰まりが、見られるようになって来たところに、世界的なコロナ騒ぎです。
そこに地球温暖化に起因したと思われる、様々な災害が毎年のように、世界中を襲います。
もはや、これまでのようなお金を中心とした、社会は成り立たない状況が、これでもか、これでもかと言わんばかりに、積み上げられているようです。
昆虫の変態に当てはめて考えると、幼虫が脱皮を繰り返しながら、大きく成長して行く様は、肥大化する経済社会のようです。
幼虫は大きく育つために、とにかく食べます。
貪欲に食べ続けることが仕事のようです。
経済社会も利益を追求し、どんな事をしてでも、お金を稼ごうとします。
その結果、権力者や大企業が、市民を犠牲にしてでも、自分たちの利益を、求めようとして来ました。
しかし、それが経済社会の成長を、後押しする以上は、誰にも止めることができませんでした。
ところが、ある所で昆虫の幼虫が、成長することをやめるのと同じく、経済社会も成長を止める時期があるのでしょう。
そして、それがまさに今なのだと、私は感じています。
幼虫が成長をやめるのは、新たな形態に姿を変えるためです。
それと同じように、人間社会も経済社会から、新たな形態の社会へと、変化しようとしているのだと、私は思うのです。
そのために、これまでは当たり前だった事が、当たり前ではなくなりますし、成立していた商売が、成立しなくなるでしょう。
でも、それは新たな形が、生まれるためです。
これからは古い形態に、こだわり続けるのではなく、新たな形態の仕事や暮らし方が、求められるのです。
初めのうちはその動きも、緩慢に見えるかも知れません。
しかし、やがて勢いのある流れになり、その流れに乗ろうとする、人々の動きによって、流れの勢いは、ますます強くなるでしょう。
恐らく、ここ数年のうちに、これまでの経済社会に代わる、新たな社会の形の礎が、姿を見せることになると思います。
その基本となるものは、お金ではなく、感謝と思いやりという、本当の人間らしさでしょう。
今の暮らしに、不安を抱く人は多いと思います。
でも、その中に感謝や思いやりと、出会う機会があるのでは、ないでしょうか。
そして、感謝と思いやり以外に、今の世界が置かれた状況を、乗り越えることはできないのです。
今の人類は、産みの苦しみの中にいます。
それは希望と喜びを、産み出すためのものです。
感謝や思いやりと出会ったら、その時の想いを大切にして下さい。
そして、その想いを基礎にした、暮らしを追い求めて下さい。
そうすれば、新たな社会が早く産み出され、産みの苦しみも、軽減されるはずです。
どうか、芋虫の経済社会から、蝶のように美しい社会に変わることを、思い浮かべ続けて欲しいと思います。