大人になってから読んだ本
中学生の頃からは、読むとなったらマンガでした。
小説などの本は、ほとんど読んだ記憶がありません。
大学生になると、不思議な事が書かれた本は読みました。
でも、物語のような本は、やはり読まなかったですね。
たまに本屋さんで、話題になっているような本を、手に取ることはありました。
でも少し読むと、自分には向いていないと思って、元に戻しました。
何度かそんな経験をすると、大人が読む本なんて、面白くないものばかりだと、勝手に決めつけるようになりました。
それで、社会人になってからも、小説を読むことはありませんでした。
しかし、三十代に入ってから、何となく古本屋で、手に取った本を読んだ時、私は衝撃を受けました。
冒頭に記述された、物語の舞台の情景が、本当にそこにいるかのように、目に浮かんだのです。
思わず読み進めて行くと、主人公が登場するのですが、その暮らし様が、また目に浮かびます。
これは絶対に買うべきだと思い、すぐさまその本を購入しました。
それは藤沢周平氏が書いた、「蝉しぐれ」という時代小説です。
文庫本でしたが、他の文庫本と比べると、かなり分厚い本でした。
それでも話の展開が面白くて、二日かけて読み切りました。
その後も、藤沢氏の他の作品も読みたくなって、次々に購入しました。
むさぼるようにして読んだ本は、全部当たりでした。
私は、どうしてこの人の本は、こんなに心に響くのだろうと考えました。
そして、わかったのが、どの作品にも、著者の人柄が滲み出ているという事でした。
藤沢氏の作品に共通しているのは、一生懸命に生きている人の姿を、一生懸命に書き表している事です。
それは、懸命に生きる人々への、共感と励ましなのです。
藤沢氏は、ご自身が大変な苦労をされた方で、とても優しい人なのだなと思いました。
また、ユーモアもあって、読む者の心の緊張を、ふっと解いてくれるような、話し上手な方です。
作家は誰もが話し上手だと、思われるかも知れませんが、そうではありません。
作家によって、文章の文体は違いますが、そこには作家の人柄が表れています。
わかりにくい文体を、特徴とする作家もいるのです。
藤沢周平氏が登場人物たちを見る眼差しは、とても優しいのです。
また、この藤沢氏は山形の方なのですが、山形をとても愛しているのだという事も、読んでいて伝わって来ます。
作品に描かれた登場人物も舞台も、全て藤沢氏の心の中にあるもので、どの作品も藤沢氏自身の分身だと言えるでしょう。
だからこそ、藤沢氏の作品は心に響き、夕日が沈んだ後も紅く染まったままの空のように、読み終わってからも、心の中に深い余韻を残すのだと思います。
そんなわけで藤沢氏の作品は、私に読書の面白さを、思い出させてくれました。
それから藤沢氏以外の作品も、いろいろ読むようになりました。
しかし、読後に感動が胸に残る作品は、案外少ないと感じました。
藤沢氏以外で、私が心を惹かれた作家は、浅田次郎氏です。
とても有名な方ですが、とにかく泣かせるような物語を作るのが、得意な方です。
男とは、人とは、こういうものなのだと、訴えているような作品が、多いような気がします。
今の人たちは、本よりもネットゲームやネット動画に、夢中になっているようですが、何かのきっかけで読書も面白いと、思うようになるかも知れません。
ぜひ、そうなってもらいたいと思います。
全ての本が面白いとは、私は思いません。
自分に合う作家とは、滅多に巡り会えないかも知れません。
それでも、もし素敵な作家と出会えたなら、必ずや人生観が大きく広がるに違いありません。
本なんかつまらないやと、頭から決めてかからずに、機会があれば、本を手に取ってみるのも、いいと思います。