ウィルスは生物か その1
新型コロナウィルスの新たなタイプ、オミクロン株の出現で、また世界が戸惑いを見せています。
人に感染して増殖したかと思えば、免疫で抑えられて勢いを減らし、もう大丈夫かと思うと、新たなタイプがまたもや増殖する、ということを繰り返していますが、このウィルスというものは、そもそも何なのでしょうか。
目に見えない細菌のような、とても小さな生物は、微生物と呼ばれます。
この細菌の一部は、動植物に感染して炎症を起こしたり、増殖したりしますが、ウィルスも似たような状況を作ります。
そのためウィルスも、微生物の範疇に入れられることがありますが、現在の生物の定義からは、ウィルスは定義から外れてしまうので、厳密に言えば微生物ではありません。
今の生物の定義というものは、次の三つです。
・自己と外界との境界を持つ。
簡単に言えば、細胞構造を持つということです。
・エネルギー代謝を行う。
つまり、自己の中に取り込んだ物質を、化学変化させて活動に利用する、ということです。
・自己複製を行う。
ウィルスは細胞構造を持ちません。
ですから、生物とは言えませんが、生物に感染して増殖するウィルスは、その動きを見ていると、生物のように思えてしまいます。
そのため、細胞構造ではないけれど、遺伝子が膜に包まれた形をしていて、外界との境界があるから、この項目については OK としてもいいのではないか、という意見もあります。
ウィルスの分類に困って、基準を緩めた格好ですね。
では、エネルギー代謝はどうでしょうか。
ウィルス自体は、自身の中で化学反応を起こしません。
寄生して、中に取り込まれた細胞の中で、細胞の代謝を利用して増殖しますが、自分でエネルギー代謝をするわけではありません。
このことから、ウィルスは生物ではなく、ただの物質に過ぎないと、考えられています。
また、自己複製についても、ウィルスは寄生した細胞の力を借りれば、増殖することができますが、自身の力だけでは増殖できません。
実際に増殖しているのだから、生物ではないかと言いたくなるところですが、自分の力での増殖でないから、だめだそうです。
こんな感じで、ウィルスは細菌のような、微生物と思われがちですが、学者の定義によれば、生物ではないということになります。
しかし、感染して増えるのだから、絶対に生物ではないとは、言い切れないだろうという意見もあり、ウィルスは生物と非生物の中間、という扱いのようです。
学者がそう言うのだから、そうなのだろうと思いたくなりますが、でも、この生物の定義とは、何を根拠に作られたのでしょうか。
それは、昔の人が細胞を生命の基本単位と考えたからです。
そして、生きている細胞とは、どのようなものかを考えた時に、これらの定義を導き出したものと思われます。
言い換えれば、この定義は、それが生きた細胞がどのようなものであるのかを、説明しただけなのです。
さらに言えば、生きた細菌の性質を、大まかに説明したものと言えるでしょう。
体の細胞について言えば、受精卵に近い、まだ何の細胞になるか決まっていない細胞は、どんどん分裂して、増殖することができますが、血液や皮膚、筋肉の細胞など、形がはっきり決まってしまった細胞は、増殖することができません。
それでは、その細胞は生物ではないのかと言うと、そんなことありませんよね。
ですから、この自己増殖という定義も、とても大雑把な定義と言えます。
そんな定義を導き出した時には、学者たちの視野には、ウィルスは入っていなかったのでしょう。
そのため、ウィルスをどう扱えばいいのかわからず、生物と非生物の中間などという、学者としては情けなくなるような、曖昧な表現しかできなくなるのです。
ウィルスとは何なのか、ということを真剣に考えると、生命とは何なのか、という問いの答えが、垣間見えるように思います。
生物に関する定義は、そろそろ書き換えてもいいのではないかと思うのですが、この定義はそのままにして、別の言い方を付け加えても、いいかもしれません。
従来の定義に従えば、細胞構造を持つものが生物であり、細胞構造を持たなければ非生物です。
ここで、生物=生命という考えを捨てて、生物型生命体、非生物型生命体、という表現にすれば、すっきりすると思うのですが、いかがでしょうか。
これであれば、ウィルスは非生物型生命体です。
また、ただの物質と表現される存在も、非生物型生命体です。
ウィルスを生命体と考えるのであれば、いわゆる物質を生命体を見なしても、問題はないと思います。
その線引きをするのは、難しいでしょう。
宇宙の全てが元々一つであり、それぞれの存在全てが、生命であると考えるならば、この表現の方が適切だと思います。
ウィルスは生物ではないけれど、生命体なのです。