日本初のオストメイトモデル その2
医師であるエマさんは、自身が難病によりオストメイトになりました。
それによって、オストメイトの方たちの苦悩を、身を持って知ることになったのです。
それでもエマさんは、自分が置かれた現状に立ち向かいます。
オストメイトだからこそわかる、オストメイトの苦悩を、そうではない人たちに訴え、少しでもオストメイトの方たちが、快適に過ごせるようにと考えたのです。
人工肛門の部分に装着する袋は、パウチと呼ばれていますが、何と、このパウチを作っている会社の人たちでさえ、オストメイトの方たちの苦しみを、理解できていなかったのです。
自分が人工肛門になり、24時間パウチを装着して、管理しなければならない状態であることが、すでに普通の状態ではなく、それだけでもオストメイトの方たちは苦しみます。
それなのに、このパウチが透明で中身が丸見え状態ですから、オストメイトの方たちは、そのことでさらに苦しむのです。
パウチが透明なのは、便の状態を確認しやすいため、というのが理由です。
手術をしたあとの体調や、腸の状態を確かめるためには、それが必要なのはわかります。
しかし病院を退院して、自宅で通常の暮らしを始めるようになれば、パウチを透明にしておく必要はありません。
調子が悪くなれば、便の状態以外でもわかります。
それに、パウチを交換する時に、自分で便の状態を見ることもできます。
便を確かめる必要がない時に、わざわざ透明のパウチで、自分の便が外から見える状態にする必要は、どこにもありません。
オストメイトでない人も、自分の衣服や体に、自分の便がべったりついたまま、外を出歩くことを想像すればわかるでしょう。
たとえ、乾いて匂いが取れていたとしても、そんな格好を好む人は、一人もいないと思います。
それなのに、あなたは病気なのだから、その格好で辛抱しなさいと言われたら、どんな気持ちになるでしょうか。
外国では日常の生活を送る、オストメイトの方たちのために、透明でないパウチが用意されているのです。
それなのに、何故か日本だけは、いつまでも透明の袋のままで、それを改善する動きが見られません。
これはパウチの問題と言うよりも、日本人気質と言いますか、今の日本人にすり込まれてしまった、周囲への無関心の問題でしょう。
自分の言動が、他人にどのような影響を及ぼしているのかを、何も考えず無責任に生きている人が、どれだけ多いことでしょうか。
そのような事例は、日常の至る所で目撃できます。
パウチの話も、その一例に過ぎないのです。
外国ではオストメイトであることを隠さず、パウチを見せたモデルがいます。
その姿は決して嫌なものではなく、むしろかっこよく魅力的です。
また、オストメイトの人たちが日常生活を楽しめるよう、様々な服や下着などが開発されています。
しかし、日本ではそのようなものは、一つもありません。
そこでエマさんは、自分は日本初のオストメイトモデルになろうと、決意したのです。
エマさんは透明でないパウチを、作るよう企業に働きかけ、自らオストメイトの理解を求めるポスターを作ったり、あえてパウチが丸見えになる、水着姿をネットで公開したりしました。
すると、多くのオストメイトの方たちから、力をもらったと感謝の声が届きます。
それでもオストメイトモデルとしてのスポンサーは、日本では見つかりませんでした。
そんなエマさんに好機が訪れます。
オストメイトモデルの仕事が、海外の企業から依頼されたのです。
日本は外国から圧力をかけられたり、外国と比較されて、日本が劣っていると言われることに、とても敏感です。
エマさんに海外企業のスポンサーがついたというのは、日本としては情けないことではありますが、今後の日本が大きく変わるための、大きな一歩なのです。