伊予の狸話 その1
四国には狐が見られず、一方で狸はよく見かけます。
そのため、四国には狸にまつわる話が多いです。
今日は、その中の一つ、松山のお袖ダヌキをご紹介します。
松山市の街の中心部には、松山城のお堀があります。
そのお堀の東側と南側の角の部分に、大きな榎が生えていて、その根元には狸を祀った祠があります。
ここに祀られている狸が、お袖ダヌキです。
その場所は、松山市役所の目の前で、路面電車や多くの車が往来する騒々しい所です。
そんな所にひっそりと、ほとんどの人に気づかれないまま、お袖ダヌキの祠はあるのです。



さて、このお袖ダヌキですが、江戸時代にお城がそびえる山から、この場所に移住して来たそうです。
昔、この辺りは榎が多く茂っていたそうで、今の市役所前の通りは榎町通りと呼ばれていました。
榎を住処をしたお袖ダヌキは、榎の上から通行人を眺めるのが、楽しみだったと言います。
また、道祖神に成りすまして、神通力で人々の願いを叶えたことから、多くの人に崇拝されるようになったとか。
このお袖ダヌキが棲む大榎は、これまでに何度か切られたり、植え替えられたりして、今の榎は明治の初めから数えて、四代目の榎だそうです。
住処である榎を切られるたびに、お袖ダヌキは他の地へ引っ越しをし、またいつの間にか元の所へ戻って来るということを、繰り返していたようです。


とても目立つ場所にありながら、案外知る人が少ない、お袖ダヌキ。
松山の隠れた観光スポットと言えるでしょう。
でも、これは人間の才能にも、似ていますよね。
すごい才能があるのに、本人も含めて周囲の人が気がつかない。
しかし、知っている人は知っている、ですね。
見る人が見れば、その才能がどれだけすごいのかは、一目瞭然です。
きっと、あなたにもお袖ダヌキのような、隠れた才能がありますよ。