四国のタヌキ
四国にはキツネが少なく、タヌキが多いと言われています。
その理由には、二つの伝説があります。
一つは、キツネが人に悪さをするので、弘法大師がキツネを、四国から追い出したというものです。
弘法大師に関する言い伝えは、数多くあります。
でも、弘法大師が聞いたら、びっくりするようなものばかりです。
この話もそうですが、タヌキだって人を化かすと言われているのです。
それなのに、キツネだけを追い出すなんて、ひどい人だと言われそうで、弘法大師がお気の毒です。
さて、もう一つの説明は、中世に道後温泉の近くに暮らしていた、河野伊予守道直(こうのいよのかみみちなお)というお殿さまが、追い出したというものです。
ある日、キツネがこのお殿さまの奥方に化けて、奥方が二人になったそうです。
お殿さまは困惑しましたが、食事の様子で、どちらがキツネかを、見破ったと言います。
お殿さまは、捕まえたキツネを殺そうとします。
しかし、このキツネはキツネの頭領で、多くの家来キツネが現れて、お殿さまに許しを乞うたそうです。
許されたキツネは、仲間を連れて四国から立ち去り、それで四国からキツネが、いなくなったという話です。
実際は四国にも、少ないながらも、キツネは生息しているようです。
それでも目撃されるのは、圧倒的にタヌキが多いです。
私もこれまで何度もタヌキを見ました。
道路に車にひかれて死んだ、タヌキの死骸も時々見かけます。
確かに四国では、タヌキはそれほど珍しくない生き物で、人間のすぐそばで暮らしています。
有名なスタジオジブリのアニメ映画に、「平成たぬき合戦ポンポコ」というタヌキの物語があります。
この話では、都会のタヌキの力になるため、四国から神通力を持った、三匹のタヌキが登場します。
それは、讃岐の太三郎狸、伊予の狗神刑部狸、阿波の金長狸の三匹です。
この三匹は、いずれも有名なタヌキで、神社に祀られています。
他にも名前をつけられて、人々から親しまれるタヌキの話は、たくさんあります。
それほどタヌキは、四国の人々にとって、とても身近な存在という事なのでしょう。
それにしても面白いのは、祠を作ってタヌキを祀る、日本人ですね。
日本人は何でもあがめて、祀ってしまいます。
唯一神を信仰する、外国の方から見れば、とても奇妙に見えるでしょう。
外国の人の信仰は、厳格なイメージがあります。
個人的には、それほど強く信仰していない人も、いるとは思います。
でも、宗教としての雰囲気は、やはり厳格な感じです。
それに対して、日本人の信仰というのは、とても軽い雰囲気があります。
相手は神さまですから、みなさん、敬意の念は持っています。
でも、日本人はその神さまを、とても身近に感じているように思えます。
まるで、アパートや下宿の大家さんか、小学校の校長先生のようなものでしょうか。
とにかく頭は下げますが、世間話をしたり、冗談を言っても、許される相手なのです。
タヌキやキツネのように、いわゆる神さまでないものが祀られるのは、やはりそこに身近な親しみが、あるからでしょう。
地域によっては、それがヘビであったり、イノシシであったり、河童や鬼や龍などの、異界の存在が祀られています。
それぞれ畏怖の対象ではありますが、敬愛の対象でもあり、人々が親しみを持つ相手なのです。
それが現実に、存在するかどうかは、関係ありません。
人々が、そこに存在を感じれば、それは確かにいるわけです。
そういう存在たちは、人々の念が、産み出したものです。
ですから、それらは人々の、心の表れと言えるでしょう。
いろんな神さま、あるいは神さまみたいなものが、祀られているのは、とてもユーモラスです。
それは人々こそが、ユーモラスという事なのですね。
いろんなものが祀られるのは、人々がいろんなものを身近に感じ、親しみを覚えている証拠です。
それは人々の生き方であり、生活感なのです。
四国にキツネが少なくて、タヌキが多い本当の理由はわかりません。
でも、その結果として四国の人たちは、タヌキに親しみを感じるのでしょう。
タヌキにまつわる話に花を咲かせ、タヌキに化かされる事を楽しみ、タヌキを神さまみたいに祀るのです。
それは、タヌキを通して表された、四国の人々のユーモアなのです。