光の存在
今日で何日になるだろう。わたしはあれからずっと学校を休んで、自分の部屋に引き籠もっている。
母も兄貴も心配して、何があったのかと聞くけれど、そんなの説明できるわけがない。学校の先生も様子を見に来たみたいだけど、わたしは一度も顔を出さなかった。
部屋の扉越しに聞いた母の話では、先生も何があったのかをちゃんと把握できていないらしい。自分で説明してくれないと誰も何もわからないと、母は懇願するように言った。
それでもわたしは沈黙を貫いた。先生が事情を知らないはずがない。母はわたしが嘘つきなのをわかった上で、わからないふりをしているだけだ。
食事もほとんどしていない。下に降りるのはトイレに行くときだけで、あとは部屋の中だ。母が心配して食事を運んで来るけど、そのほとんどはゴミ袋行きだ。液体は窓から外へ流して捨てた。この三日に口にした物と言えば水だけだ。
こんなことをしていれば当たり前だけど、とても具合が悪い。身体が衰弱しているのが自分でもわかる。だけど、別に死んでもいいと思っていた。もうこの世のすべてと縁を切り、一人で消え去ってしまいたいという気持ちになっている。
早苗はたぶん怖いのだろう。わたしの様子を見に来ることはなかった。
でも、久美は二度訪ねて来た。一度目は学校を休んだ翌日。二度目は昨日だ。
どちらの日も、家にはわたし以外誰もいなかった。呼び鈴が鳴ったとき、わたしは二階の部屋のカーテンの隙間から、そっと門の外を見た。そこには久美が立っていた。
久美はしばらくそこにいたけど、そのうち諦めて帰って行った。そんなことが二回あった。
久実は電話もかけてくれた。母がそう伝えてくれたけど、わたしは誰とも喋りたくなかった。それに、今のわたしには久実が別世界の人間みたいだった。だから電話には出なかった。
わたしなんかがいなくたって、久美はみんなと仲よくやっていけるだろう。それに久美には谷山がついている。あいつ以上に頼りになる者もいないから、久美は安心だ。わたしが久実を心配する必要がなくなったのだから、よかったと言えばよかったのだと思う。
久実や早苗と楽しく過ごしていたのは、ほんの前のことだ。久美の家にも呼んでもらって、久美のお母さんにも気に入ってもらえた。わたしも久美や早苗を母に紹介した。わたしは三人の絆が深まったと思ったし、それがとてもうれしかった。だけど、今ではそんなこともずっと昔のことのような気がしている。
二人に対する怒りや悲しみはすでに鎮まり、今はただ遠くから二人の幸せを願う気持ちがあるだけだ。悪いのはわたしであって、久美も早苗も悪くない。わたしが一人で勝手に泣いたり怒ったりしていただけで、こうなった責任のすべてはわたしにある。
真弓や百合子には悪いことをしたなと思う。でも、それ以上は何も思わない。
初めの頃は、何もあんな言い方をしなくたってとか、みんなの前で晒し者にすることないのにと反発していた。でも、元々あの二人とは合わなかったんだと考えると、どうでもよく思えた。
クラスのみんなにしたって同じだ。みんな友だちのようでいたけれど、本当の友だちとなると、いないも同然だった。
顔や名前を知っていて、その時の気分で適当にお喋りをする。それだけの人たちであって、何でも話し合えるような者はいない。ただの友だちごっこだ。本当の友だちだったら、あのときにわたしの話を聞こうとしてくれたはずだ。
何もかもがどうでもいい。考えるのも面倒だ。だけどその一方で、やっぱりみんなと仲よくしたかったし、認めて欲しかったという気持ちが、思い出したように頭をもたげてくる。
どれが自分の本音なのかが、わたしにはわからなかった。ただ他の人たちのように、もっと魅力的な女の子に生まれていればと、悲しく思う気持ちがあった。
もっと美人だったら、もっと頭がよかったら、もっと運動が得意だったら……。子供の頃から、そんなことを思うことはよくあった。だから、わたしは自分が嫌いだった。何かで失敗したり笑われたりするたびに、わたしは自分を呪った。そんな恥をかいたときの感情が蘇り、わたしはますます自分が嫌いになった。
こんな自分に生んだ両親を恨んだこともある。て言うか、認めてもらえないことに腹を立てていたのだと思う。わたしだって兄貴みたいに認めて欲しかったから。でも、もうそれも無理。
あれも嘘、これも嘘。そもそも真弓たちが友だちだということ自体が嘘だった。わたしみたいな大嘘つきは、親にとって恥以外の何でもない。わたしはクラス中から白い目を向けられただけでなく、大好きな親に大恥をかかせてしまった。なんでこんな子を産んでしまったのかと思われるに違いない。
兄貴にしたってわたしのとばっちりで、真弓たちから悪く見られるかもしれない。それどころか、兄貴の学校でもわたしのことが話題になって、兄貴も学校に居づらくなってしまうことも考えられる。そうなったら、わたしはどうすればいいのだろう、兄貴にも兄貴に期待を寄せている両親にも顔向けができない。
わたしは鏡に映る自分に、毎日のように悪態をついた。
お前なんかいない方がいい。なんで産まれて来たりしたのさ。嘘をつく以外何もできないブス。お前なんかに生きる価値はない。お前なんか死んじまえ。死んでこの世から消えればいいんだ。そうすれば、きれいさっぱり忘れられるし、わたしだって嫌な想いをしなくて済む。
鏡の中から同じ言葉を言い返すわたしは、脂ぎった髪がぼさぼさだ。やつれた顔の目の下には、黒いクマができている。皮膚はがさがさで唇の色も悪い。不細工な顔がさらに醜くなっている。きっと、もうすぐ死ぬんだろう。
言い争っていると、最後には鏡の中のわたしが泣き出してしまう。ざまあみろだ。だけど、なんでか勝ったはずのわたしも泣いている。
今日、母は仕事に行くかどうか迷っていた。だけど、これ以上お荷物にはなりたくないし、今更心配なんかして欲しくない。兄貴の学費を稼がないといけないのだから、さっさと働きに行けばいい。だから、構わないでとわたしは母に怒鳴った。
だけど母が出かけてしまうと、母はわたしをそれほど大切に想っていないのだと、悲しい気持ちになった。理不尽で自分勝手な考えなのはわかってる。でも、どうしてもそんな風に考えてしまう。たぶん、頭がどうにかなっているに違いない。
ベッドでぼんやり天井を眺めているうちに、うとうと眠って夢を見た。
学校の教室で自分の席に座ったわたしを、クラスのみんなが取り囲み、わたしを指差しながら、嘘つき、ブス、役立たずと、罵倒したり嘲笑したりする夢だ。ここ何日も同じ夢を見てしまう。
夢の中のわたしは、自分を認めてもらおうと必死になって、言い訳したり懇願したり泣きわめいたりする。
でも、早苗と久実は廊下からわたしを見ているだけ。助けてはくれない。そのうち久実は谷山に誘われて姿を消し、早苗も迎えに来た家族と一緒に行ってしまう。
みんなは死ねと言って、わたしに唾を吐きかける。
気がつけば、先生が教壇に立っている。でも、わたしがみんなから罵られているのを見ていながら、少しも止めようとしない。一人で黒板にいろいろ書きながら授業を進め、時折、誰かの名前を呼ぶ。だけど、それはわたしへのいじめを止めるためじゃない。授業の質問に答えさせるためだ。
先生の質問に答え終わった生徒は、再びわたしを罵倒し始める。先生は誰も見ていない黒板を指差しながら、独り言のように授業を続けている。
何でか廊下を母と兄貴が歩いていて、わたしの教室を探しているみたいにきょろきょろしている。だけど、ここだよと叫んでも、わたしの声は二人には届かない。この教室の中の出来事も、わたしが中にいることも、二人は気づかない様子で行ってしまう。
わたしは独りぼっち。誰も助けてくれない。誰も気づいてくれない。そんな思いに脳みそがつぶされそうになりながら、気がついたら部屋の天井を見上げて泣いていた。
悲しみから逃れようと、ふらつく身体で台所へ行きテレビをつける。だけど、少しも面白くない。
テーブルの上のお菓子を一つだけ口に入れ、カップに入れた牛乳を少し飲む。それからテレビを消して部屋へ戻ろうとしたけど、階段の途中で何度も息切れで動けなくなった。
咳をしながらやっと部屋に戻り、だるい身体でお気に入りの漫画や本を広げてみる。でも、全然話が頭に入って来ない。結局、わたしはぐったりとベッドに横になった。
退屈という感じはない。退屈を感じる神経回路が麻痺しているのだろう。うとうとするまで、ぼーっと過ごす。
このぼーっという感じも、初めは何も考えないでぼんやりしていたのだけど、今日は頭の中が溶け始めているのではないかと思うような、ちょっと異常なぼんやり加減だ。身体も日に日にだるくなり、やつれているのに重い感じが強くなっている。
喉の痛みや咳が始まったのは数日前からだ。寒気もひどく、測ってはいないけど熱があると思う。咳は日増しにひどくなり、黄緑色のどろっとした痰が出るようになった。
母にも兄貴にも身体の状態については話していない。でも隣の部屋の兄貴には、わたしの咳が聞こえていたのだろう。母はわたしに病院へ行くよう説得したけど、わたしは部屋の扉を閉めたまま、頑として母の話を聞こうとしなかった。薬を飲んだ方がいいとは思うけど、意固地さの方が勝っていた。
心の奥底では母に助けを求めていた。でもそれができないまま、わたしは部屋に籠もり続けた。だけど、今日は咳が一段とひどくて息苦しい。それに咳をするたびに胸が痛くなる。なんだか部屋の空気が薄いみたいで、いくら息を吸っても吸えてないみたいだ。
わたしは身体に鞭打ち、もう一度下へ降りて風邪薬を探した。そのとき、引き戸が開けられたままの両親の部屋が何となく気になり、わたしはそこへ足を踏み入れた。
普段はめったに入ることがない八畳間の中を、わたしはぼんやりした目で見回した。
本当なら父も一緒のはずなのに、ずっと母はこの部屋に一人でいる。寂しげなその姿が目に浮かぶと、わたしは居たたまれない気持ちになった。
もう出ようと身体の向きを変えたとき、足下の畳の上にアルバムが二冊、無造作に積まれているのに気がついた。
しゃがんでアルバムを開いてみると、それは兄貴が生まれてからの写真集と、両親が若い頃の写真や、家族で撮った写真を集めたものだった。
タンスの上には写真好きの父が出張先で撮った、風景なんかの写真のアルバムが並んでいる。そこを片っ端から調べたけど、わたしだけのアルバムはどこにもない。
わたしは勝手にタンスの引き出しや、押し入れを開けて自分のアルバムを探した。だけど、どこにもなかった。
やっぱり、そうなんだ。わたしは両親にとって、少しも大切な存在じゃなかった。きっと、望まれないで生まれて来たに違いない。早苗と違い、わたしは望まれていなかった。夢で見た産まれる前の母の姿は、わたしの妄想に過ぎなかった。
わたしは兄貴のアルバムを蹴飛ばすと、息苦しいのもかまわず二階へ駆け上った。そのままベッドに倒れ込むと、枕に顔を押しつけて泣いた。
声を出して泣いたせいか、ひどく大きな咳が出た。とても泣くどころではない。咳が続いて息ができないし、胸の痛みも半端じゃない。だけど、どうすることもできない。
しばらくすると、ようやく咳は治まった。だけど、わたしは疲れ切ってぐったりしていた。このままだと本当に死んでしまいそうだ。
やっぱり病院へ行くべきなのか。そうだ、さっきは風邪薬を取りに行ったはずなのに、忘れて上がって来てしまった。何か薬を探さないと。
わたしは枕から顔を外した。すると、わずかではあったけど、白い枕カバーに小さな紅い染みがいくつもついていた。顔を近づけて確かめてみると、咳で出た唾しぶきで濡れたと思われる跡がある。紅い染みはその中にあった。
「血だ」
怖くなったわたしは、机の上のティシューを何枚も引っ張り出すと、それで枕カバーを拭いた。だけど、拭いても拭いても紅い染みは取れない。
また咳が出た。思わず手に持ったティシューを口に当てたら、そのティシューにも紅い斑点がついた。
わたしは、もうおしまいなのだと思った。死んでもいいやと思っていたのに、いざ死が目の前に迫ると、恐ろしさに身体が震えた。
わたしみたいな役立たずは、誰にも大事に思ってもらえない。だけど……。
「お父さん……、お母さん……、怖いよ……。死ぬのは嫌だよ……」
涙が再びあふれ出した。でも泣くと咳が出るので泣けなくなる。咳が止まると、また涙は流れ落ちるけど、声を出して泣くと咳が始まる。
朦朧とする頭の中は悲しみと絶望でいっぱいだった。泣いていると、またもや咳が出始めた。今度の咳はかなりひどく、息を吸う間を与えてくれない。かろうじて吸えた息はほんの少しで、すぐにまた胸の中の少ない空気を搾り出すような咳が続いた。辺りに咳と一緒に出た血が飛び散っている。
息ができず気が遠くなって行く。頭の中で誰かが囁いている。
――思い出しなさい……、思い出しなさい……。
言葉の意味を理解できないほど、頭の中はぼやけていた。
きっとこのまま死んでしまうんだという思いが、わずかに後悔の余韻となって、わたしの意識は消えようとしていた。
だけど不思議なことに、誰かの声はさっきよりもはっきり聞こえるようになっていた。そして、わたしはその声を聴くだけの存在になっていた。
――思い出しなさい……、思い出しなさい……。
わたしは一人の女性の近くに浮かんでいる。その女性はお母さんだった。
わたしは子犬のようにお母さんの周りにまとわりついて、早くお母さんの子供になりたいと思っていた。
お母さんは慈愛とユーモアに満ちた人で、お母さんの子供として生まれて来ることを、わたしはお母さんと約束していた。
まだ身体を持たないわたしは、今のお母さんには見えない。それでもわたしはお母さんにわかってもらいたくて、何度もお母さんに声をかけた。だけど、全然お母さんは気づいてくれない。
でも、ほんとは気づいてくれていると、わたしにはわかっていた。だって、お母さんの優しさや温もりが、わたしをしっかり包んでくれているから。
あれ? お母さんのお腹に何かが見える。はっきりした形はないけど、何かがいるみたい。あなたは誰? わたしを待ってたの? うれしい。それに、ありがとう。会いたかったよ。あなたと一つになることで、わたしはお母さんの子供になれるんだね。
いつの間にか、わたしは違う所に浮かんでいた。ここはどこだろう?
浮かんでいるのは、どこかの部屋の天井近くだ。ぶら下がった蛍光灯が横に見える。蛍光灯の傘の上は埃だらけだ。全然掃除をしていない。
汚いなぁと思いながら周りを確かめる。壁が見えるけれど、頭がぼんやりしているみたいで、今ひとつしっくり来ない。まるでテレビの画像をのぞいているようで、自分がここにいるという実感がない。
だけど、ここはどこなんだろう?
壁に貼られたポスターやカレンダーが見えた。どこかで見たような気がするけど、上から見下ろしているせいか、よくわからない。
わたしは視点を変えて、もっと下を見た。すると、机やベッドが見えた。ベッド脇の床の上に、誰かが横を向いて倒れている。パジャマ姿の女の子だ。
わたしは女の子の顔をよく見ようと思った。すると、すっと床全体が迫って来て、女の子との距離がなくなった。それで、わたしは女の子の顔を間近で見ることができた。
ぼさぼさの髪は、何日もお風呂に入っていないみたい。油でべたべたした感じだ。肌も汚いし顔色も悪い。ご飯をちゃんと食べていないのか、頬が少しこけたように見える。
閉じられた目は涙で濡れ、紫色の唇に血がついている。もしかして、死んでるの?
わたしは女の子に触れようとして、初めて自分に手がないことに気がついた。驚いて身体を確かめると、そこにあるはずの身体がない。どこを見ても身体がない。あるとしたら頭だけか、あるいは目玉だけに違いない。
パニックになって周囲を見渡したとき、わたしはようやくそこが自分の部屋だと気がついた。
じゃあ、この倒れている女の子は誰? わたしはもう一度女の子を見た。
女の子が着ているのは、わたしのパジャマだ。え? と言うことは、この子は――
わたしは悲鳴を上げた。でも、上げているつもりの悲鳴が、実際には声に出ていない。叫び声は耳ではなく、頭の中で聞こえるだけだ。もし、頭があったならだけど。
――嘘! 嘘だ! わたしは死んでない! わたしはまだ生きてるよ!
訴える相手などどこにもいないのに、わたしは周囲に向かって叫んだ。でも、やっぱりそれは、頭の中での叫びだった。
わたしは泣いた。だけど、泣き声なんか誰にも聞こえない。涙だって出ているかどうかわからない。
わたしは自分の身体の上に、浮かんだまま泣き続けた。やがてその悲しみは、次第に怒りへと変わって行った。
倒れている自分に向かって、わたしは罵声を浴びせた。
――何で死んだりしたのよ! この役立たず!
わたしは自分の身体をたたこうとした。だけど、手がないからたたけない。そのことが余計にわたしをいらいらさせた。
――この馬鹿! 死んだふりなんかやめて、さっさと起きなさいよ。ほら、起きろ!
倒れているわたしの身体はぴくりとも動かない。
悲しみに打ちひしがれたわたしは、こうなってしまったことへの腹立ちを、倒れている自分の身体にぶちまけた。
――いいよ、もう。そうやって勝手に死んでれば? あんたにはその姿がお似合いよ。ブスだし馬鹿だし、何の取り柄もない、ただの八方美人の嘘つきだもんね。あんたのせいで、これまでわたしがどれだけつらい想いをしたのかわかってんの? あんたなんか、あんたなんか……。
大っ嫌い!――と叫んだとき、倒れているわたしの目から涙がこぼれるのが見えた。一瞬はっとなったけど、わたしはそっぽを向いた。すると、そこに光が見えた。
何か光輝くものが、わたしと同じように浮かんでいる。眩しいぐらいの光だけど、少しも眩しくはない。
このまばゆい光が何なのかはわからない。ただ、その光からは優しさといたわりが伝わって来る。もしかして、これが神さま?
突然、頭の中で声が聞こえた。
――あなたは、まだわからないのですね。
どうやら喋ったのは、この光らしい。それに、これはわたしに何かを思い出すよううながしていた、あの声だ。
光が話しかけているのはわかったけれど、わたしはすっかり圧倒されていて、光への返答ができなかった。何を言われているのかもわからないし、思考自体が停止してしまったようだ。何も考えることができず、わたしはただ光を見つめていた。
そんなわたしに対して、光が怒る様子はなかった。光はいたわりを放射しながら、淡々とした口調で言った。
――あなたは思い出さねばなりません。
思い出す? 何を思い出すって言うの?――独り言なのか、光に言い返しているのか、自分でもわからないままわたしはつぶやいた。
すると、光の輝きがさらに強くなり、部屋中が光でいっぱいになった。そのあまりの輝きに、わたしは自分がどこにいるのかわからなくなった。
熱くもなければ眩しくもない。だけど、光以外は何も見えない。しばらくすると、光の強さが和らいで行き、視界に何かが見えて来た。
まばゆさがすっかりなくなったとき、そこには見覚えのある眺めが広がっていた。